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take a breather

第27章 Turning Up

「あ、あの…中へどうぞ…」

「はい。失礼します」

少し辿々しい喋りになる僕に対し
穏やかな微笑みを浮かべ、落ち着いた雰囲気の翔くん

僕の方が年上なのになぁ…

そういえば、僕、年下の人好きになるの初めてだ
いつも同い年か、年上だった

だって、僕だってまだ若いのに
その僕より年下で落ち着いた人なんて、巡り合った事なかったんだもん

翔くんを連れてリビングを通り、その隣の和室へ

「ここにも書が飾られてるんですね」

生徒さん用の机の正面に飾ってあるのは平仮名で『こころ』と書いた物

「うん。『書は心の画なり』なんて言われててね
字はその人の事を表すんだよ?」

「って事は、俺は心が汚いって事ですか?」

「ふふっ、違うよ。
パッと見、汚いと思うかもしれないけど
それは日常的に急いで書いてるからそうなってるだけで
心を落ち着けて紙に向き合って書くと、いつも書く字と違う字が書けるから
翔くんの心が汚いなんて事、絶対ないから安心して?」

「ありがとうございます
やっぱり智さんは先生なんですね
生徒にやる気を出させるのがお上手です」

「そんな事ない
僕は本当に思った事を言ってるだけだよ?
この前、翔くんと話してみてわかった
翔くんは心が真っ直ぐな人なんだって…
だから、ぜーったい字にもその事が表れる
心が真っ直ぐな人が書く字が、汚い筈ないから
これはプロの書道家としての意見ね?」

翔くんがジッと僕を見る

「素敵です」

「えっ⁉︎」

見つめられて、そんな事言われたらドキドキしちゃうんだけど…

まさか、翔くんも僕の事?

「智さんは、自分の仕事に誇りを持ってるから…だから素敵です
俺も誇りの持てる仕事をしたいと思ってるんで、智さんのこと尊敬します」

「あ…そういう、こと…」

なんだ、ちょっと期待しちゃった…

でも、尊敬して貰えるってことは、好かれてるってことだもんね
それだけでも良しとしよう

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