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take a breather

第25章 P・A・R・A・D・O・X

大野先生がイーゼルをソファーの前に持って来て、高さを調節してくれる

「このくらいで大丈夫かな…
スケッチブック置いてみて?」

スケッチブックを置くと、大野先生は定位置である俺の左側に戻ってきた

「うん、大丈夫そうだね?
じゃあ早速始めようか」

「はい」

「まずは、自分の手をよく観察してごらん」

「観察ですか?」

「そう、ただ見るだけじゃなく、手の構造を見るんだ」

目の前で左手を開いてよく見る

「掌には線が沢山あるし、良く見ると色も違いがあるし、影もあるし、光沢のある部分もあるだろ?」

「はい…」

今まで線は認識してたけど、色は一色だと思ってたし、光や影なんて感じてなかった

手の甲はどうなんだろう…
今度は掌を返し、手の甲を観察する

「手の甲の方が、爪があって関節もあるから描き易いかな?
それに…」

大野先生の手が伸びてきて、俺の手に触れる

「ここに骨の筋が浮かんでるだろ?」

そう言って、俺の手の甲の筋を指で撫でるようになぞる

「んっ…」

「櫻井くん?」

先生に手を撫でられると、なぜかゾクっとして変な声が出た

恥ずかしい…
大野先生も変に思ったよね

「す、すみません…ちょっと擽ったかったから…」

恥ずかしさからなのか、ドキドキして顔が熱くなる

「あ…ごめんな?擽ったかったか…」

慌てたように大野先生が手を引っ込めた

「い、いえ…大丈夫、です…」

離れていってしまった大野先生の手
俺の手と違って大人の男の人の手、だったな…

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