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take a breather

第25章 P・A・R・A・D・O・X

「スケッチブック持ってる?」

「はい、持ってます…」

提出する気が無い訳じゃない
ちゃんと家で描こうとは思ってるから、スケッチブックは持って帰るんだけど
結局上手く描けなくて、まだ提出に至ってない

毎日美術室に来て大野先生の絵を見てるのになぁ

見てるだけで絵が上手く描けるようにならないかな…

「出して?」

「え…」

「スケッチブック、出して?」

大野先生がニコっと微笑む

「あ、はいっ…」

急いでバッグからスケッチブックを取り出した

「開いて見せて?」

「…まだ全然描いてませんけど」

スケッチブックを開いてみせた

「うん、努力の跡は見えるね
何度も描いては消してる形跡がある」

「描いてはみるんですけど、なんか納得なくて…
自分で納得出来ない絵を、大野先生に提出していいのかな、って」

「ふふっ、そっか…
じゃあ、描いてる所見ててあげるから
もう一度描いてみようか
櫻井くんが納得出来るように、アドバイスしてあげる」

「え?いいんですか?」

大野先生にマンツーマンで指導して貰えるなんて

「いつまでも提出出来ないと困るでしょ?
美術のせいで、櫻井くんの評定が下がったら嫌だからさ」

「大野先生の責任じゃないです
俺に美術の才能がないだけ…」

「それでも、俺の教科で櫻井くんの足は引っ張りたくないからね」

だから、その優しい微笑みはダメだって…
先生にこれ以上甘えちゃ駄目だと思うのに、つい甘えてしまう

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