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Memory of Night

第8章 花火


「あき……ら、何してんだよ! 離せッ!」


 宵は晃の腕の中で、身をよじり、必死になってもがいた。

 抵抗すればするほど、自分を拘束する腕はきつくなる。

 両腕ごと、痛いくらいに抱きすくめられて、ほとんど身動きできなかった。

 それでも、抵抗せずにはいられない。

 首を振り、あらがっていなければ、晃の固い腕は皮膚や骨を通り抜けて、一番弱い心の部分に達してしまう気がした。

 全身でそれを拒絶する。

 晃に自分の本心を暴かれるのが怖かった。


「……っ」


 ふいに、宵が暴れるのをやめた。

 握りしめていた拳を一度ほどき、手をベンチにつく。

 固い木の感触を手の平で感じる。

 宵が力を弱めると、晃の拘束も弱くなった。


「わかったような口聞くな……!」


 叫ばずにはいられなかった。

 自分の中で沸き上がる憤りを吐き出したくてたまらない。


「あの人は……ッ、しょせん他人なんだよ!! どんだけ面倒見てくれたって、例え俺が母さんて呼んだってそんなの……!! ……甘えられるわけ――ねーだろ!!」


 目頭が熱くなった。

 息を詰めてそれを堪える。

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