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Memory of Night

第8章 花火


 こんなところで泣いてたまるか。

 頭ではそう思うのに、晃の胸にしがみつきたい衝動にかられた。

 しがみついて、心も体も預けて子供のようにわんわん泣けたらどれほど楽だろう。

 そんな衝動をこらえる為に、ベンチに着いた手にさらに力をこめる。

 晃の片手が持ち上がり、あやすように背を撫でられた。


「――だったら、俺に甘えればいいよ」

「…………は?」


 耳元で囁かれた言葉に、宵は反射的に顔を上げた。


「何言って……」

「自分の気持ちをあの人に言えないのなら、俺に言えばいい。弱音でも愚痴でも、好きなだけ聞いてやるからさ」


 口元を緩め、微笑を浮かべる晃。

 晃からそんなことを言われるなんて予想もしていなかった。

 何も反応できずにいると、もう一度抱き寄せられた。

 今度のその行為には強引さは一切なく、太い腕からは温もりだけが伝わってくる。

 それがあまりに心地良すぎて、拒絶も抵抗もできなかった。

 その体勢のまま、晃は言う。

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