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Memory of Night

第8章 花火


「違う……っ! 俺はただ、あの人に世話になったから! その分を返してーだけだ……!!」


 宵が腕を振りかざし声を張り上げる。

 その姿は、今までにないほどに感情的だった。

 何もかもを否定しようとする目。ただただ頑なに。自分の気持ちさえ、否定しようとしているような。


「……宵。どうしてそこまで意地を張り続ける? ムキになって自分の本音を隠そうとするんだ?」


 晃の声色は真剣そのものだった。

 その眼差しにほんの一瞬だけ宵の瞳が揺らいだが、心の迷いを打ち消すようにすぐに細められる。


「隠してなんかねーよッ! 俺は……!」


 そこで、宵の言葉は止まってしまう。


「俺は?」


 晃が静かに先を促すと、宵は伏せめがちな目で、どこか絞りだすような声で、言った。


「……甘えたくねーんだよ」

「志穂さんに?」

「……」


 宵は何も答えない。

 視線はそのままに、晃は病院で見た志穂の姿を頭に思い描いた。

 そして、納得する。


「そうか。甘え……られないよな、あの人じゃ」

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