Memory of Night
第8章 花火
気がつくと、宵は自分の唇を強く噛みしめていた。
口の中に、苦みの混じった紅の味が広がる。
……甘えている。自分は志穂に甘えすぎている。
そう思った瞬間、髪を振って叫んでいた。
「嬉しくなんか……っ、ねーよ!!」
闇を切り裂く悲鳴のようなその声に、晃が目を見開く。
宵は晃のシャツを掴み、自分の顔をぐっと晃に近付けて、強い瞳で晃を見た。
噛みつきそうな瞳。でも晃には、その瞳がどこか泣きそうに見えて、晃はそんな宵を悲しげに見つめ返した。
「じゃあどうして、自分の体を犠牲にしてまであの人を助けようとするんだ?」
わずかに、憐れみを含んだ声。
宵が顔色を変えた。
「犠牲……? なんだよそれ、妙な言い方するんじゃねえ!」
セックスなんて、一時的な戯れにすぎない。体の汚れも、洗い落とせばすぐに消えるのだ。
犠牲だなんて、思ったことはない。
「でも嫌なんだろ? 他人に体をベタベタ触られるの。……なのに、セックスは好きなの? そんなわけ……ないだろ?」
何も言えない。言葉が見つからない。
だからひたすら、首を振った。
作品トップ
目次
作者トップ
レビューを見る
ファンになる
本棚へ入れる
拍手する
友達に教える