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Memory of Night

第8章 花火


 宵は唐突に、片足をベンチの上に乗せて片膝を立てた。

 わずかに瞳を細めて言う。


「……変な病気にはなるし、最後にはぶっ倒れちまうし。もっと早く、言やーいいのに……」


 そうしてそのまま、突き放してくれれば良かった。

 もうこれ以上育てられないと。アナタのようなお荷物は、抱えきれないと。

 そうすればきっと、志穂がこんな入院生活を強いられることなどなかったのだ。

 宵はぐっと瞼を閉じて、つぶやいた。


「……メーワクなんだよ」

「――でも、その何百倍も嬉しかっただろ?」


 優しい声でなだめるように言われ、宵が弾かれたように晃を見る。

 心の、奥の奥まで見透かしてしまいそうな茶色の瞳とぶつかった。ずっと、閉じ込めていた感情が騒ぎ出す。

 ――嬉しかった、とても。

 だから離れられなかった。離れたくなかった。

 志穂の自分に向ける、無器用な優しさや温もりが温かすぎたから。

 どれだけ負担や重荷になっているとわかっても、自分から側を離れるなんてできなかったのだ。

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