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ぜんぶ俺の物〜ケダモノ弟の危険な独占欲〜

第2章 嘘つき


「おかえり。早かったね」
ちゃんと洗ったの? と言いながら、亜貴は部屋着姿の私の手をとり、ベッドの縁に誘導する。ベッドの上にはドライヤーやコーム、ヘアケア用品が用意されていた。
「座って」
おとなしく腰をかける。亜貴はその真後ろで胡坐をかいた。
「思ったとおり。そうとう痛んでるね」
「……たまーにぷつって切れることはある」
は、と怖い声が戻ってきたので私はそこで黙ることにした。
通いつけの美容院でも、美容師さんに似たような反応をされるが、職業病なのだろうか。
「たまには毛先も切ってあげてる?」
「いや、全く」
「伸ばすにしても、定期的に切ってあげなきゃ奇麗に伸びないんだよ」
「伸ばしてるつもりはないんだけど、勝手に伸びちゃうから」
再びは、と言われたので、私は素直にごめんなさいをした。
「洗い流さないトリートメントつけとく。これあげるから、ちゃんと毎晩使って」
「はい」
パチンと蓋の開く音がして、後ろからふんわりとフルーティな芳香が漂った。
「あ、この匂い好き」
甘味の強すぎる香りは苦手だけど、これは微香性で鼻につかない。
「でしょ。姉ちゃんの好みだと思って持ってきた」
亜貴は毛先から丁寧に塗り込みながら、歯の浮くような台詞をさらりと言った。
「そう。ありがとう」
私じゃなければ、この一言でいちころだ。女性客から指名が殺到していただろう、亜貴の仕事風景が、ありありと脳裏に浮かんだ。

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