ぜんぶ俺の物〜ケダモノ弟の危険な独占欲〜
第1章 1
「まさか亜貴に一途に想いを寄せる人がいるなんてねえ。律も知ってる子?」
「し、知らない知らない」
亜貴が私の顔をじっとみている。
「……それじゃ私、もう帰るね」
その視線と空気に耐えられず、いそいそと食器を持って席を立つ。
「帰るの?」
亜貴の声が私を追った。
「あ、うん」
「じゃあ俺、姉ちゃんの家まで送っていくよ」
手を滑らせた食器が、洗い場の中で鈍い音を立てる。
「いい、いい」
「あら、送ってもらったら? ついでに瑛人くんに挨拶してきなさい。この子、結婚式に出席できなかったんだから」
冗談じゃない。
「近くなんだから、別に今日じゃなくたって」
食器洗いもそこそこに、私は一目散に玄関へ向かおうとする。
「いや、行く。俺もその瑛人さんに会ってみたい」
濡れた手でバッグを持ち上げたと同時に亜貴が席を立った。
「い、いいでしょ、私のことは放っといてよ」
「……放っとける訳ないでしょ」
眉をひそめた亜貴の顔に、私は今度こそ冷や汗が止まらなかった。
「ついでだから夕飯のおかずも持ってってちょうだいな」
当然何もしらない母は、保存容器に詰めたおかずを亜貴に持たせている。
元来頑固な母は、言い出したら聞かない性分だった。もう断れそうにない、と私は覚悟を決めるしかなかった。
作品トップ
目次
作者トップ
レビューを見る
ファンになる
本棚へ入れる
拍手する
友達に教える