
氷華~恋は駆け落ちから始まって~
第3章 幻の村
「サヨンさま、それは―今の言葉は、俺と一緒に村を作って、ここで生きてゆくということなのですか?」
トンジュの眼に明るい希望の光が灯る。
サヨンは弱々しい微笑みを浮かべた。
「誤解しないでね。確かに私はここであなたが新しい村を築くのを見届けたいし、必要であれば力にもなりたいと思っている。でも、それは、あなたと一緒に生きていくという意味ではないの。同じ志を持って協力し合って生きていくのと男女の恋愛は違うでしょう」
「そう、ですか」
あからさまに落胆の色を浮かべるトンジュを見ていると、何か自分の方が悪いことをしているような後ろめたさを憶えてしまう。
「俺がお嬢さまに惚れていることが、お嬢さまを苦しめているんですね」
あのサヨンが苦手な思いつめた瞳で言われても、〝そうだ〟と頷けはしない。
「私には、あなたに返すべき言葉がまだ何も見つかってないの。ただ一つだけ、あなたの今の話を聞いていて、判ったことがある」
「それは何ですか?」
直裁に訊ねられ、サヨンもまたトンジュの視線を今度ばかりは逸らすことなく受け止めた。
「私もここに新しい村ができるのを見てみたい、そう思ったのよ。あなたが話していたような、村人皆が家族であり兄弟のように暮らせる村。そんな村がまたここにできたとしたら、素敵でしょうね。私の見つけた夢というよりも、希望のようなものかしら」
「お嬢さまの夢―」
トンジュは呟き、サヨンを見つめた。
「サヨンさま、俺の夢の話を聞いてくれませんか?」
突如として言い出す男に、サヨンは眼を見開く。
「夢?」
「俺には子どもの頃から、ずっと夢があったんです。俺にとっては忘れられない想い出がありますが、サヨンさまは、憶えてはいないでしょうね」
話を振られても、サヨンは曖昧な笑顔を返すしかない。
「俺がお屋敷で奉公するようになってまだ日も浅い頃のことです」
七歳で生まれ故郷の村を離れたトンジュが最初に訪ねたのは、麓の町だった。折しも町には奴隷商人が滞在しており、トンジュは自分から彼に頼み込んで、都で働きたいから働き口を探して欲しいと頼んだのだった。
トンジュの眼に明るい希望の光が灯る。
サヨンは弱々しい微笑みを浮かべた。
「誤解しないでね。確かに私はここであなたが新しい村を築くのを見届けたいし、必要であれば力にもなりたいと思っている。でも、それは、あなたと一緒に生きていくという意味ではないの。同じ志を持って協力し合って生きていくのと男女の恋愛は違うでしょう」
「そう、ですか」
あからさまに落胆の色を浮かべるトンジュを見ていると、何か自分の方が悪いことをしているような後ろめたさを憶えてしまう。
「俺がお嬢さまに惚れていることが、お嬢さまを苦しめているんですね」
あのサヨンが苦手な思いつめた瞳で言われても、〝そうだ〟と頷けはしない。
「私には、あなたに返すべき言葉がまだ何も見つかってないの。ただ一つだけ、あなたの今の話を聞いていて、判ったことがある」
「それは何ですか?」
直裁に訊ねられ、サヨンもまたトンジュの視線を今度ばかりは逸らすことなく受け止めた。
「私もここに新しい村ができるのを見てみたい、そう思ったのよ。あなたが話していたような、村人皆が家族であり兄弟のように暮らせる村。そんな村がまたここにできたとしたら、素敵でしょうね。私の見つけた夢というよりも、希望のようなものかしら」
「お嬢さまの夢―」
トンジュは呟き、サヨンを見つめた。
「サヨンさま、俺の夢の話を聞いてくれませんか?」
突如として言い出す男に、サヨンは眼を見開く。
「夢?」
「俺には子どもの頃から、ずっと夢があったんです。俺にとっては忘れられない想い出がありますが、サヨンさまは、憶えてはいないでしょうね」
話を振られても、サヨンは曖昧な笑顔を返すしかない。
「俺がお屋敷で奉公するようになってまだ日も浅い頃のことです」
七歳で生まれ故郷の村を離れたトンジュが最初に訪ねたのは、麓の町だった。折しも町には奴隷商人が滞在しており、トンジュは自分から彼に頼み込んで、都で働きたいから働き口を探して欲しいと頼んだのだった。
