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『untitled』

第5章 赤いシクラメン

「うん!案外、髷姿も似合うのね」

ずっと、潤がやりたいと言っていた時代劇のドラマのオファーがきた。

来年度のMHK開局50周年の記念ドラマのポスターを見て社長は嬉しそうに笑う。

「はい、今日から殺陣の稽古に入ります」

「今までにないくらい男臭いドラマよね」

「……」

「あなたも普通の人間なのよね」

「あの…」

何かを言わなければならないんだけど、何をどう伝えていいのかわからず口ごもる。

「櫻井も松本の前だと、ただの、男ってことよね」

全てを見透かされているんだろう。

確信を持った物言いに全てがあらわれている。

「これで、ますます、忙しくなるわよ。松本は」

「はい」


社長の言った通り潤は今まで以上に忙しくなった。

「あぁ~、難しいなぁ…相手がいるだけで全然違う」

水をごくごく飲む潤は楽屋のソファーに腰をおろした。

「もう、ない?もうちょっと飲みたい」

「車にあります、取ってきます」

楽屋のドアに手をかけようとしたら潤の手の方がわずかに早く、鍵を閉めた。

「なっ、んっ、ん」

楽屋のドアに押し付けられて唇を奪われる。

潤の唇が耳へ移動してきた。

「ちょ、なに、してるんですかっ」

慌てて身を捩り、潤の体を押す。

「物欲しそうな顔してたからさ」

ジッと見つめられ目をそらした。

先週から始まった殺陣の稽古。

だんだん、形になってきて今日は相手をつけて練習していた。

飛び散る汗
滴る汗

アノときを思い出してしまって…

見てられずにトイレに逃げ込んだ。

それが、バレてる…

「こっち見て、翔?翔くん?翔ちゃん?」

「もう!からかうなって!」

「やっと、こっち見た♡」

もう、隠し通すのは難しいかもしれない。

俳優 松本潤のマネージャーとしてずっと見守っていきたい。

そして、
恋人 櫻井翔としてずっとそばにいたい。

「仕事中だよ」

「わかってる、もう一回」

再び、重なる唇。


「さぁ、行こうか」

「はいっ」

俺たちはまた、俳優とマネージャーの関係に戻った。

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