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『untitled』

第5章 赤いシクラメン

翔からの貪るようなキスに翻弄され、下半身に熱が一気に集まった。

その熱をまるで開放する様に翔の手が俺のベルトに伸びて外していく。

さっきまでアイツに触れられると思うと嫌悪感しかなかったのに……

今は翔に触れて欲しくて仕方がない。

「いいの!こんな事して……バラすから!」

震える手でスマホを操作し、カメラを俺たちに向ける。

これが世に出回れば俺の俳優生命は終わる。

俺のために必死に頑張ってきた翔の努力が水の泡になるなんて絶対にあってはいけない。

「翔、止め…っ」

翔の手を振り解こうとするけど力が入らない上、翔も動かす手を止めようとしない。

「それはあなたじゃないんですか?」

スマホのカメラの前に立ちはだかったのはバドラーだった。

「何、偉そうに……私はここの客よ!」

「ここはあなたのような下品な人が泊まる場所ではありません」

「私がここにいくら払ってるかわかって言ってるの?」

「えぇ、わかってます。そしてあなたがしてきた事も」

「してきた事?私にはさっぱりわからないわ。証拠でもあるの?」

勝ち誇ったようにバドラーを見つめる。

バトラーは何も言わずドレッサーに向かうと、メモの隣に立ててあるボールペンを手に取る。

「私がやったことをメモでもするの?誰があんたなんかの……」

『ふふっ、どうしたんですか?』

『なっ、なにして……』

『さっきまでの威勢……ないんですね?』

『私が……欲しい?』

聞こえてきたのはさっきの生々しい会話。

手を止めていた翔が拳を握りしめて震えるから、沸き上がる欲望を抑えて抱きしめる。

「これが何だって言うのよ!こんなのが証拠に……」

確かにこれだけでは何が起こっているかわからない。

「もちろんこれだけではありません。あなたが宿泊した日は全て録音済です。これをマスコミに流せばどうなるか……おわかりですよね?」

普段は優しく頬笑むバドラーが口角を上げ、不敵な笑みを浮かべた。

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