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『untitled』

第5章 赤いシクラメン


バドラーはこちらを向き一礼して、部屋のドアをノックした。

開かれたドアの中から出てきたのはバスローブ姿のあの女だった。

揺れる長い髪に屈むとこぼれそうなほど豊かな胸元。

細く綺麗に仕上がった指先に白く柔らかそうな足。

これを目の前にして潤の心が揺らいでしまわないか、途端に不安になった。

が、

俺の胸ポケットから流れる軽快なメロディ。

ドアから死角になるようにそっと離れ耳に携帯を当てた。

『しょ…う…』

ガシャーン

と、部屋の中からグラスなどが倒れる音がして、
それは俺の耳元でも聞こえて。

中に、この部屋の中にやっぱり、潤がいる。

音ともに一斉に部屋の中に視線が移る。

俺はバドラーと彼女を押し退け、部屋の中へ入った。

「失礼いたします」

「何しに、来たのよっ」

「潤!」

潤は全身を震わせ、ソファーにうずくまっていた。

潤の回りには散乱したグラスや飛び散るガラス片にこぼれた赤ワインが。

俺の声に顔をあげた潤。

潤む瞳に赤く染まった頬。

「潤になにをした?」

「ちょっと、アンタ!何しに来たの?早く出てってよ!邪魔なのよ!アンタもこいつ、不法侵入よ!部屋から連れ出してよ!」

早口で捲し立てる女の顔はとても醜かった。

「聞いてるのか?潤に何をしたんだ?」

「これから、イイコトしようとしてたのに…邪魔されちゃったね?」

女は潤の前で屈み頬を撫で、耳元に息を吹きかけた。

グッと身体に力を入れて、その手を潤が払った。

そして、潤が俺を見た。


潤は欲情してる。


身体の中の怒りの炎がメラメラと火柱となった。

「潤に触れるなっ」

潤に触れた腕を掴み押し退けた。

「キスってのは、こうやるんだ」

潤の前にひざまつき、顔を上げさせる。

「しょ…う…」

俺の名を呼んで、眉を下げた。

荒い息づかいの唇をすくうように口づける。

目を閉じて口づけを受け入れる潤。

俺は尻餅をついた女を見つめながら、潤の唇を貪った。

「じゅん…」

「しょ…あ…」

女は顔を真っ赤にしてこちらを睨み付ける。

唇を離しても俺たちを繋ぐ煌めく銀の糸。

「照れてんの?こっから先は見物料とるよ?」

俺は潤のベルトに手をかけた。

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