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『untitled』

第5章 赤いシクラメン

どこにいても居心地の悪い俺は逃げるようにバルコニーに出た。

この部屋は翔を初めて抱いた場所。

マスコミがどこにいるかわからない外でデート出来ない俺たちは、それから何度がここを訪れて愛を確かめ合った。

そしていつも恋人として唯一、外に出れるこのバルコニーで2人、夜空を見上げるんだ。

「ふふっ、ワインどーぞ」

そんな場所にのこのこと入ってくるから苛立ちが募る。

「いらねーよ」

「なら、飲ませてあげましょうか?」

隣に来るとワイングラスを口に持っていき、見せつけるように傾けて飲み干していく。

「自分で飲むから、ここから出てけ」

反対に持っていたワイングラスを奪って飲み干した。

「熱くなった身体を冷ますのにはいいかもね」

「は?」

差し出していた空のワイングラスを持つと、俺の問いかけに応える事なく出ていった。

けど暫くするとアイツが言った事が現実になった。

アルコールには強い俺だけど、空きっ腹に飲んだのが悪かったのか酔いが早く回ってきた。

夜風が冷ましてくれると思っていたが、治まる事なく身体がどんどん熱くなる。

俺は部屋に戻り、冷蔵庫に向うとミネラルウォーターを取り出して一気に飲み干した。

「ふふっ、どうしたんですか?」

嬉しそうな声に振り返ると、バスローブを着たアイツがいた。

「なっ、なにして……」

近づいてくるアイツから逃げるように後退りする。

「さっきまでの威勢……ないんですね?」

なんで……

濡れた髪とバスローブから覗く肌に胸の鼓動がどんどん高まり、俺の下半身もドクンと波打つ。

あっという間に距離を詰められ、逃げ道を塞いだソファーに倒れ込む。

「私が……欲しい?」

勝ち誇ったように俺に覆いかぶさる。

「テメェ、なにしやがった」

「そんな事より……今は楽しみましょ?」

逃げたいのに逃げられない。

勝手に疼く本能と翔への想いが葛藤する。

ヤバい…っ

バスローブの紐に手をかける仕草に俺は瞼を閉じて遮断した。

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