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『untitled』

第3章 一線を、越える

「お疲れ様でーす」

ひょっこり顔を覗かせたニノの服装はすでにTシャツに短パン。

「お前、もう着替えたの?」

「はい、もう暑くって……やっぱりこの服が一番っす」

「そんな服着てると、もう飯誘わねーぞ」

「えぇぇぇ!嫌です!誘ってくださいよ……ね?」

サンダルをペタペタ鳴らしながらこっちに走ってくると、小首を傾げながら俺に笑顔を向ける。


何なんだ、コイツ……

その仕草は……ワザとか?


「じゃあ、ちゃんとした服装してこい。
前も言っただろ?お前『嵐』なんだから」

そんな自分を振り払うように、先輩らしく振る舞う。

「だってこの後も仕事だし、予定も入ってないから着るのがもったいないんです。だって天下の木村拓哉から貰った服ですよ?」

「大袈裟だっつーの。じゃあ、予定があれば着るのか?」

「もちろん!イキっちゃいますよ?」

伸びきったTシャツを引っ張っりなががらキメ顔をする。

「じゃあ納涼祭のあと……飯行くか?」

「マジっすか!やったー!」

嬉しそうにガッツポーズをするニノを見て、こっちも嬉しくなる。


この映画で共演する事が無かったら、こうしてニノと飯に行く事もなかった。


こんな笑顔を見る機会もなかった……って、俺何考えてるんだ?


「木村……くん?」

ボーっとしていたであろう俺の顔を覗き込むニノの顔がドアップで映し出される。

「うわっ!」

「ふふっ、どうしたんですか?何か、変ですよ?」

お前のせいだっつーの。

今日は一日、ニノに翻弄されてばかりだ。


「先輩に変っていうんじゃねーよ」

いつも通りを装いながら、目の前のオデコにペチンとデコピンをお見舞してやった。

「はーい。じゃあ、お先です!ご飯、楽しみにしてます」

「おう!お疲れ」

パタンと閉まる扉を見つめながら、早速ニノと行く食事の店を考え始めた。

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