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『untitled』

第3章 一線を、越える

司会者の質問が聞こえないくらいの、歓声が
俺たちを包む。

こうなることを全く、予想してなかったわけじゃなくて。

嵐との共演は音楽番組と紅白で数回。
その度に話題にあがっていたことは知ってる。

プライベートでの付き合いなんてほぼ、ほぼゼロ。
ましてや、ニノは…テレビから聞く限りではかなりのインドア派みたいだし。

撮影の始まる前に一度、ランチした時も…
『任せます』ばかりで、そこにお前の意見はないのか?って。
相手に合わせるばかりが俺たちの仕事じゃないから。

だけど…撮影が始まれば『任せます』の言葉の意味はその通りなんだけど、こっちに全てを委ねてくれる。

そして、柔軟に受け止めてくれるんだ。
演技の経験は多いのはもちろん、天性のものなんだろう。彼が高い評価を受けてきたのが改めてわかった。

隣で八嶋さんにたまにチョッカイをだしながら、
俺の話もきちんと聞いて。
みんなに話を振って。
時々、俺を見上げるその顔。

ニノのマイクを握る手。
何度か握手をしてきた。

それなのに、なんなんだろう。この気持ちは。

ニノだぞ?
後輩だぞ?
共演者だぞ?
男、だぞ?

司会者からニノの印象を聞かれた。
「これほど一緒に作業していて ~ 頼りがいのある後輩だなと思います」

質問してきた、司会者を見つつ、観客席に目線を移して。周りを囲む共演者たちに目を向けながら、話す。

そうしたら…頭をペコリ、ペコリとしながら、
俺に一歩近づいた。
肩がぶつかる。

思わず、肩を抱き寄せた。

「「「キャーーーーーーー!!!!!」」」

ビックリ箱を開けたような、割れんばかりの歓声。
目を覆いたくなるような無数のカメラのフラッシュ。

ニノはカメラマンに向かって、ピースしてる。

自分の顔が緩んでるのがわかる。

だって、後輩だ。
懐かれて嫌なはずない。
嬉しいに決まってる。

でも、なんなんだろう。
この気持ちは。

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