
『untitled』
第3章 一線を、越える
「皆様、大変お待たせいたしました……「キャー!」」
扉の向こうから聞こえる司会者の言葉は観覧に来てくださった方々の歓声でかき消される。
「木村さん、お願いします」
「おう、よろしく!」
パンとスタッフとハイタッチを交わすと扉が開く。
眩しすぎるカメラのフラッシュとさっきとは比べ物にならないくらいの歓声。
それに応えるように頭を下げながら歩いていく。
視線の先にいるニノも少し緊張しつつも、ペコッと頭を下げながら笑顔で観客の方々の声援に応えている。
ゆっくりと歩いていくと、スタッフの指示があった赤と白のカーペット中央に到着する。
初共演、そして初の公の場でのツーショット。
まぁ、ここが言わずもがなワイドショーのシャッターチャンス。
そして何よりもこんなにも大きな声援を送ってくださる人達に喜んで貰いたい。
俺はニノの前に手を差し出す。
するとニノの顔がパッと笑顔に変わった。
やばっ、可愛い……
まさかの感情が突如として芽生える。
そして両手で包まれた俺の手。
「キャー!」
今日1番の歓声が響き渡る。
ただ今は聴覚よりも感覚に敏感になっている。
嘘だろ……
男とは思えないくらい柔らかい手。
グッとその手を握りしめると感情の赴くまま俺の方へと引き寄せる。
スッポリと収まるサイズ感と、心地いい肩に感じる重み。
「今回は本当にありがとうございます」
そして耳元で語尾を上げながら伝えられた俺への感謝の言葉と肩甲骨辺りに回された手。
「こちらこそ、ありがとう」
緊張とは違う部類の高鳴る胸の鼓動。
突如、沸き上がって来たものを悟られないように俺もニノの肩甲骨辺りに手を回した。
