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ながれぼし

第8章 in the water



「…はっ…」

大「松本くん?」
返事をしない俺に…心配そうな顔で覗いてくる。


これ…ヤバイ…

「はぁっ…」

えと……こーゆう時…どうするんだっけ?

あ…そうだ、深呼吸…そうゆっくり呼吸して…意識を反らして……


大「どうしたの?苦しいの?」

ごめん…それどころじゃない
今…話しかけないで……


「はぁ…はぁ…」

何度も深呼吸を繰り返すも、一向に収まらない激しく打つ心臓。

なんで…

ぎゅう。と汗ばんだTシャツ越しに自分の胸を掴んだ。

…どうしよう…どうしようどうしよう…
どうし…


大「松本くん。」

っ……

びくっ。と体が震えた。

大「目、開けて。」


…目?

その声に知らないうちに目を硬く閉じていたことに気が付く。
意識的に力を抜いて、なんとか瞼を開ければ…視界には、胸に当てた手に重ねるように置かれた…手…?

ゆっくりと…瞬きをして、ゆっくりと視線を上げれば

大「大丈夫。大丈夫だよ。」

強く穏やかな声。
そして…優しくも強い眼差し。
そしてこの手。



……

…やっぱり君は……


『絶対に助けてやるから』


そんな、あの時の声が甦った。









ミーン。ミーン……。

辺りは、もう薄暗い。
公園にいる人も、もう疎らだ。

大「みんみん蝉って本当にミンミン鳴くよね。」

「…」

大「羽化してから1週間しか生きられないって本当なのかな。」

「……」

大「空は飛べてもそれは嫌だな…。」
ほぉ…と、ベンチに座ったまま上を見上げて息を吐いた。

「………ごめん。」

大「ふふ。また凍らせれば食べられるよ。」
やっぱり、のほほん。

俺が、パニック寸前になったもんだから…大野くんの手から離れたアイスは、地面に落ちた。
中身は溶け、袋は結露で濡れ、砂まみれになっていた。

「……ありがとう…」

何故だか…わからない。
わからないけど、大野くんに触れられ、あの声を聞いたら、波が引くように俺の息苦しさも引いた。

気持ち悪いくらいの動悸。
それすらも…落ち着いた。

なんで……?ねぇ…なんで?

大「次は一緒に食べようね。」
ほにゃほにゃとした顔。

「…」


あの後…連れてこられた、この公園。




……

握られたままの手。

それが何故だか…

とても心地良かった。

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