
ながれぼし
第8章 in the water
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「…」
訳もわからず、雑誌コーナーにたたずむ俺。
えと…
流れるままに、大野くんのバイトが終わるのを待つことになってしまった。
2人キリなんて初めてだ…
大丈夫かな…と考えたくもないのに、頭の中にはもしもの時の対処法が巡る。
そしてそんな頭に、考えすぎも良くない。と無理矢理言い聞かせ、
雑誌でも読も。と、目の前のあまりにも有名なマンガキャラクターが表紙の週刊雑誌に手を伸ばし…
大「お待たせー。」
と、左側から掛かった声にその手を止める。
相変わらずの、穏やかなのんびりした声。
…
嫌いじゃないんだよなぁ この声。
あの時よりも、ワントーン低くなった声。
その声が、なんだか心地よくて…でも…ドキドキする。
大「松本くん?お待たせ?」
雑誌コーナーを向いたままだった俺の顔を、ひょこ。と覗き込んでくる。
どうやら大野くんの声に浸ってしまったらしい。
ごめん。と振り返った俺の視界に入ったのは、当たり前だけど、ユニフォームを脱いだ大野くん。
白の無地のTシャツに、色の抜けたジーンズ…に、足元は薄いブルーのスニーカー。
とてもシンプルだ。と、言うかラフぅ。
大「待たせちゃった?ごめんね?」
「いや、待ったってほど待ってないよ。」
ちらり。と見た時計。…5分経ってない。
大「良かった。じゃぁ行こー。」
出口に向かう大野くん。
いや、どこに?なにしに?なんで?
色々疑問は浮かんだけど、一日中勉強漬けの脳みそは、考えるのを止めたいらしい。
「うん。」
だから、俺は素直に大野くんの後に着いて、コンビニを後にした。
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大「暑いねー。夕方なのに。」
「だな。」
きっと、今外に居る人皆が思っていることだ。
大「ふふ。良かった。」
隣を歩く大野くんの嬉しそうな声。
「な…」
何が?って言葉は…
「ぅわっつめてっ!」
自分の声にかき消された。
大「んふふー。これあーげる。」
俺の頬っぺたに触れた冷たい物の正体。
これまたあまりにも有名な夏の定番アイス。
大きな歯がトレードマークの男の子が印刷されている、アレだ。
ぁ…
と、それ越しに目が合う。
近っ…い…
ドック…ン…!
え…?
さっきまでのドキドキとは、比べ物にならない動悸。
大「あれ?嫌いだった?」
っ…ぁ…
ちょっと待って…これ…ヤバイかも…
