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僕ら× 1st.

第27章 牛、歩く --Mkt,Ar

***

カートを押してスーパー内を一緒に歩く。
これだけでも何だかウキウキとしてくる。

「ニンジンとジャガイモと、玉ねぎ!」

俺たちは野菜コーナーから周り始める。
きっと柊が妙な顔して、こっそりついて来てんだろな。

「侑生君、何を作るの?」

3種の野菜を入れて肉コーナーを目指す俺に、不安な表情の彼女が尋ねる。

「冬だから、クリームシチュー!」

この季節になるとCMが流れ出すだろ?
あったか家族イメージの。

「シチュー?よかった。ルーを使っていいなら、私も作れる」

「ほっ」と彼女が笑ったので、俺は嬉しくなる。

「え?作れんの?すげぇじゃねぇか!誰だよ?料理下手とか言うのは」

「ホントにごくごく普通のシチューだけだよ?サラダもつけようよ。待ってて?」

サラダ?そんなん作ってる余裕あんの?

カレー・シチュー用と記入されたコロッとした肉を俺が選んでいる間に、彼女は野菜コーナーからレタスやパプリカやプチトマトや何かを抱えて戻ってきた。

「ごちそうになりそうだな」

彼女の手の中を見て、俺は本気で驚く。

「期待しないでねっ」

首を横にフリフリして彼女はルーの棚を探す。
と、俺はとある重大なことに気がついた。

「ヤバっ……。花野ちゃん。俺の部屋で作ろうと思ってたんだけどさ。俺、調理道具一個も持ってなかった…」

確認はしてないけど、柊だって持ってないだろう。
伊織の部屋だってあるとは思えない。
危険な吉坂の本宅には彼女を入れられねぇし。

炊飯器がないのはレトルトのご飯で補える!と閃いた直後に、温めるレンジも鍋もないことに消沈。
今から買い揃えてたんじゃ、今日の昼食には間に合わねぇ。

残念だけど、カートを戻すしかねぇ。
そんな俺をじっと見つめる花野ちゃんが、「はいっ」と手を上げた。

……何?その幼稚園児的な可愛い仕草っ。

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