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僕ら× 1st.

第1章 初期状態 --Ior,Shu

「またそんなカタい本読んで…ミクロ経済?ワケわかんねぇよ」

「僕の勝手だろ?」

「なぁ、伊織って、好きなコいる?中学入ってもそんなんじゃモテねぇよ?」

夕食後、柊兄がスマホ片手に軽い口調で尋ねてきた。
その横では、アル兄がPCの組立てに夢中だ。

「僕にだっているよ。将来を誓いあった女のコくらい」

遊び人の柊兄にモテないと言われて、イラッとした僕は、勢いに任せて口を開いた。
けど、ウソじゃないし。

「は?」

PCのパーツをはめ込みながら、アル兄まで僕に驚きの目を向ける。

「5才の時に婚約したんだ」

一応、タネを明かしておく。
この悪兄2人、ほっとくと何をしだすかわからない。

「伊織ちゃん、やるじゃんか」

「へぇ…それは、おめでとう」

とりあえずの祝辞を述べたあと、アル兄は再びPCに顔を突っこみだした。

「もう、忘れられてるかもしれないけど」

自分のなかにたちこめている暗雲が、2人のおざなりな態度に煽られる。
所詮、幼児の約束。
自分でもよくわかっているつもり。

「もっかい口説けば?」

臆病な僕に、いとも簡単な解決策があるじゃないかと柊兄は言い放つ。
そりゃ百戦錬磨の柊兄にとっては、"好き"なんて言葉、日常会話のうちだろうけどさ。

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