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僕ら× 1st.

第19章 雲の上 --Tk,R

と、誰かがキミを呼ぶ。
あの声は……。

自転車から離した両手を握りしめ、険しい表情のアル兄がやって来た。

俺、殴られないよな?
一瞬不安になる。

兄貴とやりあったら、その咄嗟の動作で俺の正体がバレてしまう。

柊兄もどこかで見ているはず。

アル兄は俺にあからさまな敵意を見せて、彼女を奪う。

この調子だと、そのうち彼女はアル兄の……。

俺が退席した後に、彼女から俺が伊織と似ていると聞かされた兄貴は、「イオはもっとチビで可愛くてクソ生意気!」と罵る。

俺の彼女の前で、よくも言ってくれるよな。

"可愛い"と、彼女に言われて反発した昔を思い出す。

昔っても、あれは2年前の中学2年。
初めて彼女を抱き締めた日……。

苦しくも幸せな記憶がすぐに舞い戻り、俺の心を締めつけた。

彼女を取り返したい。
悲しませてごめんと、この腕でかき抱きたい。

……これは他の男の願い。
世尾湊じゃない、速水伊織の願い。

俺はあいつとは別人……。

急いで現在のピースを手繰り寄せる。

そう、兄貴はキミと俺のひとときに嫉妬して、俺をけなしてるだけだよ。
俺に言わせれば、そんな兄貴の方が"可愛い"。

彼女の涙で濡れたハンカチを胸に、これからのふたりに手を振った。

アル兄に貰った機械、返さなきゃな……。
兄貴が彼女の傍にいてくれるなら、安心だ。

そう自分に言い聞かせて。

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