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僕ら× 1st.

第17章 水の中 --Khs,Ar,Thk

「あの映画の監督と主演の2人、一緒なんですよ」

「へぇ…"スティング"ね、見てみるよ」

ヤツが出ていった後、花野を窺う。

「花野、あんたすごいね」

「え、何が?初歩の曲しか弾いてないよ?」

棚に練習曲を取りに行く花野を目で追う。

「じゃなくて!あの吉坂にあんなに気に入られるなんて」

「先パイは、伊織君のことで気遣ってくれてるんだよ。すごく優しいお兄ちゃんなの」

「あの朴念仁が優しいねぇ」

無愛想で無口、たまに口を開くと皮肉めいたことやったり、とんちんかんな用語集やったり。
あんた以外の前ではそんな男よ。

「朴念仁?なあにそれ。先パイ、また弾いてって。次、何がいいかな?みんなが知ってる曲って案外ぱっと出てこないんだよね」

「ウェディングマーチとかいいんじゃない?ちょうど6月だし」

自分との未来を考えてくれているの?とあの男も舞い上がるんやなかろうか?

「どっちの?」

ワーグナーかメンデルスゾーンか?
なんて、それは問題やない。

「どっちも知ってると思うよ?」

どんな朴念仁だって、それくらいは。

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