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僕ら× 1st.

第17章 水の中 --Khs,Ar,Thk

小柴のところには男が1人いた。
PCに向かって仕事をしている。

俺と同じくらいの歳の男。
挨拶を軽くかわすも、見たことのない顔だった。

その傍らで俺が以前、伊織にやったロボ犬がかしこまっている。

「あんなヤツ知らないよ。女と旅行して沈んだアホなんか」

小柴は、にべもなく打ちつける。

伊織はやっぱり沈んだのか?
出てこないのは、未だ冷たい海中を漂ってるせい?

「この犬、暫く預かってもいい?」

伊織が最後に何かを残してねぇか?

「いいよ。アル犬って名前だ」

「……短絡的すぎるだろ」

あいつ、名前つける気ねぇな。

さ、これでここには用はない。
犬を従えて背を向けた俺に、小柴は唐突に質問してきた。

「あの女のコどうしてる?フリーなんだろ?」

あれから4ヶ月。
笑顔もよく見せてくれるようにはなったけど、花野ちゃんのピアノは時折不協和音とともにピタッと止まる、荒れた海のように乱れる…。

「あいつを忘れさせてやるにはどうしたらいい?」

そんなに優しいのならさ、教えてくれよ。
だのに、ヤツは「俺が知るかよ」とバッサリと切り捨てる。
何なんだよ、ったく。

その会話の最後に小柴から渡された画面を自室で睨む。
赤いスポットが点滅している。

なぁ、伊織。
これがこっちに渡ったということは俺、このままつき進んでいいのか?

アル犬内部は伊織のストレージ状態で、色んな表情の花野ちゃん画像で溢れていた。
伊織の想いが溢れていた。

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