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僕ら× 1st.

第8章 le journal --Ior,Ar

「星でも見るかな」と言って兄ぃは、俺を道場の外に誘う。

そこで、慰めるか励ますかだと思っていたのに、暗い空を見あげながら呟くように放たれたセリフはどちらでもなかった。

「言いたくても言えない気持ちってのは、どうしたらいいのかって思うよな?」

「兄ぃも経験者?」

なわけねぇ。
すべて両想い、ってか入れ食い状態だろ?

なのに兄ぃは、予想外の言葉を続ける。

「現役だよ。ずーっと秘密にしてる。フラレるにしても、言ってしまいたい。俺から想われてるって、存在を心に留めてほしいよ」

兄ぃも俺と同じような片想いで苦しいの?
いや、待てよ?

「兄ぃって彼女いなかった?」

兄ぃは脇の自販機にチャラッと小銭を入れ、ボタンを押しながら答える。

「いるよ」

おいっ!

「なのに別の女が好きなのか?」

取出し口に落ちてきた缶を身を屈めてつかみながら、俺を見て笑う。

「好きなコとつきあえないから、そこまで好きじゃないコとつきあってるけど、いけない?」

おぃ……。

「……いけなく、ない」

"ダメだろ"なんて、言えなかった。
世のなか、唯一の好きなコ以外は、そこまで好きじゃないコなんだから。

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