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僕ら× 1st.

第6章 卒業まで --Ar,Mkt

終わった……。

彼女を送ったあと、俺はカバンと借りた傘を後部座席に置き、助手席に身を滑らせて柊からの攻撃を待った。

「相合傘、できただろ?よかったな」

あそこでキスを迫り、プロレスしながら告白するなんて!となじられるかと思ったのに、柊がそんな優しいことを言うから、俺は……。

「すべてがわざとかよ」

熱い目頭を押さえ、顎をあげてシートにもたれる。

ああ、こいつ、それで今にも降りだしそうな空を見て笑ったのか……。

天気まで味方にね、すげぇな……。
それに、あの粉何だよ?胡椒?

「ま、上出来。カッコよかったぜ?」

ウソをつけ。
俺のこと慰めようとしてるのが丸わかりだ。

彼女と会話ができるようになった、この1か月とちょっと。
どうにかして俺のほうを向いてほしかった。
会うたびに惹かれて、もうこのコしかいないって思っていたから…今でも、想っているから。
あいつの…伊織の彼女じゃなければ、こんな簡単な告白で済まさないのに……。

クルマを走らせ始めた柊は、目を閉じていた俺の膝に、無言でハンカチを置いてきた。

もうおさまったこれはフラレたというより、全力を出せなかった悔し涙……。
彼女には、俺の想いは伝わっていない。

伊織がいる以上、兄の俺は彼女の記憶から抜けることはないだろう。
でも、彼女を好きな吉坂侑生として、甘く苦い記憶として、残りたかったよ。

だけど、これでいいんだ……。

信号待ちで柊が静寂を破る。

「ほら、あれがお前の言ってた"ムーンリバー"だ」

顔をあげると、ストリップバーの文字が光っていた……。

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