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僕ら× 1st.

第6章 卒業まで --Ar,Mkt

「ハニィ」

彼女と歩きだして間もないところで、横からやってきた長身の男に呼びとめられる。

"ハニィ"?

「あ、お兄ちゃん」

これが長兄?

「こんばんは」

お互いに挨拶をかわす。
にこやかな笑顔を向けながらも、目は俺を警戒しているのがわかる。
俺、ここまでか?

と、花野ちゃんが俺を紹介してくれる。

「リルのお兄さんだよ」

そうだな、それが俺のポジション。

「あ、そうか。傘ないの?」

伊織の兄と聞いて、表情が少し柔らかくなる。
好かれてんだな、あいつ。

「ちょっと盗られまして」

「…そか。じゃ、可哀想だから、クルマに着いたら俺の貸してやるよ」

え?俺、クルマまで花野ちゃんと歩いていいの?
妹に近づくんじゃねぇと、帰されるかと思ったのに。
伊織の兄だから?

その寛容さに違和感があるけれど、今日が最後と決めている俺にはありがたい。
2人のクルマまで、ふたつの傘が進んでいく。

助手席に入った花野ちゃんに手を振り、黒い傘に持ちかえた俺は柊のもとへゆっくり歩いた。

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