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僕ら× 1st.

第5章 伊織の婚約者 --Shu

静かな夜のリビングで、アルと食事をとる。

今を旬とする焼き魚の小骨を噛みくだきながら、世間話のように軽くもちかける。

「なぁ、卒業までに距離を縮められねぇなら、厳しいと思うぞ?」

思い出を作るなら今、ってやつだ。

「お前、俺に発破かけてんの?それともあきらめるよう促してんの?」

ほうれん草のおひたしに、ナッツと醤油をかけて。

「舞台が違うのに、好きでいるのは辛れぇぞ?」

そういえば、ポパイって男が缶詰ほうれん草をポイッと食ってたな。
一度、実物を見たことがあるけど、ドロドロのくすんだ緑でとても……よくいえば、栄養や繊維がありそうだったな。

「留年を勧めてんの?」

「アホ」

お前がダブったら、俺までダブらねぇといけないじゃねぇか。
俺は早く一人前の男になりたいのに。

「伊織はいいなぁ。花野ちゃんと同学年で」

その程度の羨ましさじゃねぇんだ。

「…アル、ホントに見てるだけで終われる?好きだって言っちゃえば?」

言いたくても言えなくなる、その前に。

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