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こんな恋って、アリですか?

第2章 出逢い


「家賃、払うのやだ。あんたしつこいんだもん」

「言うねぇ。どっか当てでもあるのか」


  綱吉は柊に聞こえないように、
  当てンなるかどうか判んないけどね、
  と小さく答え、後ろを ─── 柊のいる通りを
  ちらっと見た。

  神代もつられて目を向ける。
  煙草の火が一瞬赤く灯った。


「ふーん。男前じゃないか? お前の客じゃないな」

「当然。あの人、外見はあんなだけどマトモだよ。
 商売っ気ゼロ」

「マジで足洗う気か?」

「さぁね」

「もったいないな。最後にやらせろ、タダで」

「ぜってーやだ」


  煙草の先から煙が白く流れ、綱吉の鼻をくすぐる。


「何だかんだ言ったって、お前面食いだからな。
 篭絡しちまうんじゃないの」

「そんなんやないって……もう行くよ」


  話しを切り上げて、綱吉は柊の所へ戻った。


  柊は同じ場所でほとんど動かずに待っていた。

  ほんの少しだけれど ───
  綱吉は柊が消えてしまうんじゃないか、と
  疑っていた。

  何となくほっとして、背の高い柊を見上げる。


「ごめん、行こう」 

「……いいのか?」

「なにが?」

「あの人」


  神代はまだ店の前で煙草を吸っている。

  綱吉と柊を見ていた。

  綱吉は軽く頭を横に振った。


「あぁ、アレはいいの。何でもない」


  柊は何か言いたそうだったが、黙って歩き出す。

  そのまま線路沿いの通りをしばらく進み、
  近道だというガード下をくぐり抜ける。

  そこは、普段の綱吉なら絶対に足を踏み入れる事の
  ない高級住宅街。

  柊の暮らしているレジデンスはその一角にあった

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