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エレベーターにて……

第1章 夢、風鈴、迷子は、終わったって!?

(今しかない。ここで、あの方と繋がりのある女性に出会えたのは、運命……いや、奇跡と言うべきじゃなかろうか? このチャンスは逃してはいかん……)

 太丸は大きく息を吸った。グングンと心拍数が高まる。

 まだ、助けは来ない。二人しかいないこの時間、これが、一世一代のチャンスであり、大博打だ。

 怖がってはいられない。当たって砕けるつもりでいこう。

「し……し、し、下賀さん!!」

「はい」

(好きです!! 私の残り少ない人生、あなたに捧げたい)

(えぇっ!! 突然言われても、まだ心の整理が……)

(いや、いいんです。私の心の内さえ聞いていただけただけで嬉しいんです。こんなみすぼらしい中高年男性に言われたって、迷惑ですよね)

(いえ、そんなことありません……むしろ……太丸さんだったからこそ、いま、心がはねあがるくらいに嬉しくて)

(ええぇーーっ!! 本当ですか!!)

(はい、本当です。だから、太丸さん、キスしてください)

「あの……盆納さん?」

「んむぅ~っ!」

「盆納さん、どうされたんですか!? 急に目を閉じて唇とがらせて……」

「んっ!?」

 太丸はその先の展開の予測を、妄想で実行していた。

 我に返ったあと、血の気がサァーッと引いたが、直後に恥ずかしさのあまり顔が紅潮した。

「あ……いや、その……」

 考えれば、由留衣は「盆納さん」と呼んでいる。「太丸さん」とは呼んでいない。

「それに、盆納さん……私の事……好き……なんですか?」

「っ!!!?」

 バレていた。

「え、いや、あの……」

「さっき言ってましたよ」

 気付かず口に出ていた。

 心臓が圧迫されるほど恥ずかしい。へそから手をつっこんで、心臓を鷲掴みにして「落ち着け」と呟きたかった。

 だが、知られてしまったのであれば、仕方がない。これに乗るか、逃げるかしか道がないのだ。

 太丸の呼吸は、緊張と動揺と気恥ずかしさで荒くなる。

(倒れるなよ、わし。気をしっかりもて、わし。男じゃろ、わし)

 動悸、息切れ、目眩のトリプルが1つに固まり、膨張し、太丸の内側から飛び出そうとしていた。

(言おう……ハッキリと一目惚れしたことを、打ち明けよう)

「あの、上賀さん!!」

「下賀です」


 終わった。

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