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エレベーターにて……

第1章 夢、風鈴、迷子は、終わったって!?

「じゃ、誰かが外から開けるまで、ここは密室状態かね」

「まあ……そういうことに……」

 由留衣は、やってしまった感たっぷりに、項垂れる。

 太丸は考えた。

(建物は休館、誰も来ない、エレベーターは二人きり、しかも密室、カメラはダミー、すなわち誰も見ていない)

「下賀……由留衣さん……でしたかな?」声を震わせながら、名前を呼ぶ。

「はい」

「このわしと、生で一発……」

 危うくストレートで、卑猥な妄想を現実化に持ち込もうとするところだった。

「は……はいっ!?」

 由留衣は返事で聞き返しながらも、ドン引きな目で、太丸を見つめる。

 生で一発まで言ってしまえば、高校生以上くらいなら、ある程度の意味はすぐにわかる。

「いやいや、違う、言い間違えた! 生半可な気持ちを捨てて、一発勝負に」

 苦し紛れだった。

 由留衣は、グッと唇を噛み締めたあと、太丸に向かって言い放った。

「あ、そうだったんですかぁ! そうですね、生半可な気持ちを捨てて一発勝負で行動をおこしましょう」

 この女、アホでござる。

「しかし、このエレベーターには、他になにか無いのかね。映画みたいに天井がパカッと開くとか……」

「これは開かないですね」

「他に連絡を取れる場所は無いのかね?」

「ここの非常呼び出しは、ビルの管理事務所にしか繋がってないんです。よほどのことが無い限り、エレベーターのサポートセンターに連絡は入れませんので……」

「いや、いまがよほどのことじゃないですか……」

「ですが、外から開けれるからと安心して来たにもかかわらず、私が一緒に入るかたちになって……申し訳ありません」

「いやいや、失敗は誰にもあることです。責めないでください」

 太丸は腕を組んだ。年をとっても、自分は男性。女性の由留衣を不安にはさせたくない。

 だが、一言発しただけで、彼女に不安を与えたのは太丸だ。

 その事実に気付くには、あと数年はかかるだろう。

「そうじゃ」と太丸は、ポンと手を叩く。

 ズボンのポケットから携帯電話を出した。

 そして、自分と由留衣が入らないように室内の写真を撮った。

「たしか、つい言った~に登録して、アカウントがあったはずじゃ」

 サイトを開き、写真を貼る。

[エレベーターに閉じ込められたナウ]

 いつ覚えたんだ?

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