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エレベーターにて……

第1章 夢、風鈴、迷子は、終わったって!?

「はい……まあ、遠回しに言えば、そういうことでして」

 直球で言っても、そういうことだ。

『あ、かしこまりました。では、しばらくお待ちくださいませ。あ、申し遅れました、私、当館エレベーターのクレーム処理担当をしております。下賀由留衣(しもがゆるい)と申します』

 お前も名乗るんかいっ!!

「あ、よろしくお願いいたします」

 通話が切れた。

 太丸はホッとして、しばらく助けが来るまで、エレベーターの床に座っていた。

 約10分後……

『チーーン』

 チャイムと共に、エレベーターの扉が開いた。

 太丸は安心した表情を浮かべ、立ち上がった。

 エレベーターの前には、スラッとした薄いグレーのスーツに身を包んだ、髪の長い、若い女性が立っていた。

「えっと……盆納太丸様でいらっしゃいますか?」

「はい……」

「私、担当させていただきました下賀と申します」

「はぁぁ……」

 太丸は由留衣の姿を見て、言葉を失った。 

 まだ、高校生の頃、好きだった科学の教師に女性教師によく似ていた。

 由留衣は、中に入ってきた。

「大丈夫ですか?」と優しく、清らかな声で様子をうかがう。

「あ、あ、ぁ……はぃ」

 太丸は緊張のせいか、小声で言った。

「よかったです。では出ましょう」

『チーーン』


 扉が閉まった。

「あら!?」

 出るのが遅れた。

 由留衣はボタンを押すが、エレベーターは、まったく微動だにしない。

「これ、外からは開けられるのですが、中からは無理みたいです」

 なにしに来たのだ?

 だが、そんな言葉は一言も発することなく、太丸は呼吸を荒くしていた。

 間近で香る女の匂いに、意識が朦朧としている。

「どうしましょう……閉じ込められましたねぇ」

 由留衣は非常ボタンを押すが、鳴る気配がない。

 事の重大さに、意識を戻した太丸は、天井を見上げた。

「あれは防犯カメラじゃないのかね?」

「ダミーなんです」

「その非常呼を押せば……」

「今日は館内休日で、担当は私だけです」

「なら、おたくのパン……いや、あの、それがおたくの出番で……」

 心の内にもつ卑猥な妄想が、危うく口に出そうになった。

 だが、誤魔化すつもりが、言葉がもつれてしまった。

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