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エレベーターにて……

第1章 夢、風鈴、迷子は、終わったって!?

 太丸は8階のボタンを押した。

 エレベーターは上昇し、すぐに8階に止まった。

「ここから、階段で上がるのかもしれんな」

 そう一人言をこぼしながら、エレベーターの扉の前に立つ。

 だが、なかなか扉が開かない。

「手動?」

 扉を開けるため、「開」のボタンを押してみた。

 だが、いくら押しても開かない。

「開かないぞぇ?」

 30数年前のファミコン名人のように、何度も押すが、なにも反応がない。

「しょうがない。下におりましょう」

 1つ下の7階を押した。



 動かない。

「……え?」

 太丸は扉を叩いた。

「開けてくれぇ~。うおーい。開けておくんなまし……」

 誰もいないのか、外からはなんの応答もない。

「わし……死ぬんかな?」

 諦めと結論を出すのが、スーパー早かった。

 だが、まだ女性の味も知らず、結婚もしないうちに、命を落とすのは
やりきれなかった。

「どうしたもんかいの?」

 太丸は、老眼鏡を下にずらし、ボタンの上に書かれているものを読んだ。老眼鏡の役目を無視したことに気が付いたのか、老眼鏡をしまい、普通にメガネをかけた。

「非常呼」

 そう書かれているインターホンのような物があった。

「これを押せばいいのかね」

 太丸はなんの迷いもなく、ボタンを押した。

『ピーンポーン』

 太丸は条件反射か、思わず逃げ出しそうになった。

 インターホンを押すのは50年以上前に、ピンポンダッシュで遊んだ時以来だった。

「おお……ここは走っても逃げ場がないわ……」

 太丸……お前は、なぜ押した?

『はーい』

 女性の声だ。

 その声に、やや遠くなりつつある太丸の聴力が震えた。

「は……はいっ?」

『はい?』

 太丸……なぜ、理由をのべない?

『あの……どちら様でしょう?』

 向こうも緊急だとは、おもわないのか?

「あ、わたくし……盆納太丸と申します」

 名乗るんかい!!

『はい、盆納様ですね、どういった御用件で』

 だから、緊急しかなかろうっ!!

 だが、太丸は落ち着いていた。

「はい……あのただいま、個室にですね」

『はい』

「あの、わたくし、一人で、個室と申しますか……」

『あ、ひょっとして、エレベーターで密室状態になられたんですね?』

 それしかないだろ。

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