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オオカミは淫らな仔羊に欲情す

第12章 予期せぬ……

  彼氏が抵抗する絢音の腕を掴み壁に押し付け、
  頬へ平手打ちをしようと手を振り上げた姿が
  目に飛び込んで来た。


  心にズキン ―― なんとも言えない痛みが走る。
   

  絶対見過ごせない光景……頭にカッと血が昇り。

  気が付いた時には、パッパーーーーッ!!

  手の平で思いっ切りクラクションを鳴り響かせて
  いた。

  驚き、慌てて絢音から離れる彼氏の向こう側に、
  俯き力を失くした小さな彼女が見えた。


「絢音っ、忘れもんだ!」


  大声で呼びかけると ――、
  とっさに顔を上げ、上からオレと目が合ってホッ 
  ―― とした表情をしたのを見逃さなかった。

  こっちへ来い、絢音。

  あの頃オレはまだ無力なガキで、
  酒乱DV亭主の暴力に怯える姉ちゃんを
  為す術もなく、ただ、見ているだけしか
  出来んかった。

  今のオレなら力になれる。

  車を前に進めアパートの階段へ横付けし絢音が
  来るのを待つ。

  助手席の向こう側のドアの前に降り立った絢音に、
  助手席のシートを指差す。


「??……」


  小首を傾げながらドアを開けて


「すみません、私、何か忘れ物してましたか?」


  右側の頬が赤い……既に1発喰らってたんかっ。

  チッ ―― 間に合わんかった……。


「コレなんだけど、キミんじゃなかった?」


  これは、オレの会社の収支報告書。


「えー、私のですかぁ?」


  そのファイルを確認しようと半身屈めて乗り込み、
  ファイルへ手を伸ばした絢音のコートの背を掴み。


「えっ??」


  疑問を投げかける声。

  左腕1本で軽々グイッ ―― と、
  一気に車内へ引き込み。

  右腕で胸元へ抱き留めた。


「ちょっ、鮫島せんせ ――!」

「あの男とはどんな間柄?」

「えっ……」

「答えたくないのなら、無理に答えなくてもいいけど、
 殴られたのは初めてか?」


   ”見られてしまった!” 
  絢音の顔が羞恥で更に赤くなった。

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