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オオカミは淫らな仔羊に欲情す

第12章 予期せぬ……


「階段滑るから、落っこちないようにっ」

「もうっ、子供じゃないんだから大丈夫です」


  そう、子供じゃないから、余計気になるんだ。


「ありがとうございました。お休みなさい」


  帰りの近道を教えて貰い、見送られた。
  ―― が、


  不意に警察の霊安室で身元確認した時の、
  姉ちゃんの死に顔が脳裏に浮かんだ。
   

  何故? 今……。


  姉の表情は安らかそのものだったが。
  その顔には痛々しいまでに腫れた瞼と、
  幾つもの痣。


「……」


  そんな光景が頭を過ぎり ―― 心がざわめく。


  同じ区画をもう1周。

  ザクザクと雪を弾き飛ばすような勢いで、
  都会の雪道を突き進むランドクルーザー。

  スキーに行くという弟から戻ってきたばかりで、
  まだ雪国仕様のままタイヤも履き換えていなかった
  のが幸いした。

  ブレーキングも加速もほとんど通常時と
  変わりはない。

  すれ違う車も少なくなった静かな住宅街は
  雪がてんこ盛り。

  スピードを緩め、さっき停めた2軒手前の
  家の前から、
  アパートの階上を見上げた。


  ―― ん?

  とある戸室の前で、何やら対面している男女。

  スーツ姿の若い男と、さっきまで助手席にいた
  絢音。

  まだ、ハンドバッグを肩から下げたままだ。

  よくよく、目を凝らして見て……なんだ、
  彼氏かと思ったが ――何だか様子がおかしい。


  大体、こんな寒い雪の日に玄関先で立ち話し
  なんて普通しねぇだろ?

  何事もなきゃいいが……。

  その2人から目を逸らさず車から降りようと
  した所で ――?!

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