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オオカミは淫らな仔羊に欲情す

第12章 予期せぬ……

  酒、飲んでなくて良かったぁ……


  ―― 運転を続けながらナビを確認。

  あの信号を右に入って、先の交差点は直進、
  ふたつ目の信号を左 ――、

  よし、大体分かったが。

  アパートの前までは来て欲しくないらしいし……。

  2~3軒くらい手前で降ろしてやるか。


  今日はあのホテルで大学時代の友人達との
  プライベートな会食だったので、
  いつも連れている護衛・陣内享と浜尾良守は
  事務所に居残り。

  それでも心配性な秘書・八木がせめて1人でも
  連れて行けとしつこく食い下がってきたが、
  たまには1人でのんびりして来ると、
  慌てて出て来た。

  たった*才違いだけなのに、八木にとってのオレは
  出会った頃のかなり手のかかるやんちゃ坊主の
  ままなんだ。


   ”もう、ここの辺りで”と、恐縮しきりで何度も
  言う絢音を、ギリギリまで送る。

  そうして、やっとアパートの手前で車を停めると、


「本当にありがとうございました。お気をつけて
 お帰り下さい」


  ―― 深々と頭を下げられてしまった。


「困った時はお互い様だ。それよりこの雪、
 この分じゃ明日まで残りそうだぞ。
 明日はちゃんと防寒靴で学校来いよ」


  クスクス ―― と、小さな笑い。

  瞬間オレの鼓動はドクンと波打った。
  おぉぉ……たまには女子高生もええなぁ……。


「―― はい、ご心配なく」


  って、元気に返事をしてくれたので、
  多少不安は薄れた。

  あのホテルのロビーで、
  窓越しに空を見上げていた彼女の横顔が
  濃い憂いを含んでいるように見えて、
  思わず声をかけてしまった。

  車の中でだって彼女は終始俯き言葉少なで、
  哀しげな視線をずっと膝の上に落としていた。

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