
原稿用紙でラブレター
第1章 原稿用紙でラブレター
朝から降り続く雨が次第に激しさを増し、窓ガラスに大粒の雫が当たっては流れていく。
波打つようなそれを頬杖をついて眺めつつ、まるで魚の鱗みたいだな、なんてぼんやりと思った。
「…ば、相葉、」
お経みたいに遠くで聞こえてた大ちゃんの声がはっきりと俺を呼んでハッとする。
「…聞いてんのか?」
「あっ、えっと…なに?」
「なに?じゃねえ。外ばっか見て…
じゃあその雨粒の落下速度求めろ」
「も〜そんなの分かるわけないじゃん」
いつもの大ちゃんとのこんなやり取りに、クラスに僅かな笑いが起こる。
「あとお前学ランは?
着てくんの忘れたのか?」
「違うよ。着て帰んの忘れたの」
「ふふっ、何してんの」
「…あ、職員会議忘れてて呼び出された人に笑われたくないんですけどー」
「っ、バラすんじゃねえ!」
焦りながらそう言うとドッと笑いが起こり、クラスメイト達が次々に大ちゃんをイジリだす。
大ちゃんの物理の時間は大抵いつもこうで。
終わり10分前くらいから俺たちが関係ない話を振り、いつの間にかチャイムが鳴って授業は強制終了となる。
案の定今日もそのパターンで、チャイムと同時にガヤガヤと教室がうるさくなった。
「相葉、」
あくびをしながら教科書を片付けていると、大ちゃんから指でちょいちょいと合図されて。
教壇に近付けば、ニヤニヤしながら見上げられた。
「お前、二宮先生に何したの?」
「え?」
突然の"二宮先生"のワードにドキッと心臓が高鳴る。
「さっき職員室でこれ預かったんだよ。
"相葉くんに返しといてください"って」
教壇裏の棚から取り出した紙袋を俺の前に提げて、ふふっと笑みを溢す。
「なんかすげえ口とんがらせて睨まれたんだけど俺。
何したの?つぅかなんで学ラン?」
笑いを堪えるように窺いながら聞いてくる。
昨日の図書室での出来事があって、朝からずっとブルーだった。
あんな間近に俺が居たことに完全に怪しまれたに違いないと。
しかも聞こえたか聞こえてないかは分からないけど、本人を前にポロっと出てしまった言葉。
…本当は、ちゃんと告白するまで取っておこうと思っていた言葉。
なのに、あんな可愛いにのちゃんを目の前にしたら自分を抑えることができなくて…
