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原稿用紙でラブレター

第1章 原稿用紙でラブレター






間近で見るにのちゃんの寝顔は相当な破壊力があった。


机の端に両腕を組んで顎を乗せ、その安らかな寝顔をジッと見つめる。


見れば見るほど、可愛くて。
ずっとこうしてられる。


誰にも邪魔されずに、こんな特等席で好きな人の寝顔を見られるなんて。


課題手伝って良かった。
…翔ちゃん、マジでありがと。


相変わらずくぅくぅと規則正しい寝息を立てるにのちゃんを見ていると、やっぱり見てるだけじゃもったいない気がしてきて。


そーっと立ち上がり、着ていた学ランを脱いで寒そうな背中にそっと掛けてみる。


…よし。


ピクリとも動かないにのちゃんを確かめてから、そのふわふわした髪におずおずと手を伸ばした。


滑らかに指を通る髪をゆっくり撫でて。


初めてのその感触に一気に心臓が高鳴る。


ヤバい…
こんな柔らかいんだ…


静かに息を飲んで、今度はその手をずらして頰に近づける。


人差し指でそっと触ると、ぷにっと跳ね返ってきた。


うわ…
なにこれ…!


男のそれとは思えない質感に驚きながらも、またそっと撫でるとすべすべさがより感じられて。


ドキドキする心臓の音に合わせて、じわじわと込み上げてくる想い。


あぁ…


やっぱり俺…


にのちゃんのこと…



「…好き」


心の中で呟いたつもりが無意識に声に出てしまってて、ハッとした時にはもう遅かった。


俺の声にゆっくり目を開けたにのちゃんとバッチリ目が合ってしまって。


や…


「…っ!相葉く、」

「な、なんもしてないからっ!
…さよならっ!」


言い訳がましいセリフを吐いて慌てて駆け出した。
カバンを引っ掴んで図書室を飛び出す。


…ヤバいヤバいヤバい!
バレたっ…!?


目が合った時の驚いたにのちゃんの顔が脳裏に蘇る。


あぁもうっ…最悪だっ!


一気に昇降口まで階段を駆け下りると、傘立てに腰を下ろしていた翔ちゃんが振り向いた。


「お、どうした?そんな慌てて、」

「はぁっ、はっ、あ…
ゴ、ゴキブリとっ、戦ってた…」

「ふは、マジで?
相当手強かったんだなソイツ。
あれ、学ランは?」

「はぁ…あぁ…
忘れて、きちゃった…」


"何やってんだよ〜"と笑う翔ちゃんにへへっと苦笑いを返し、深く息を吐いた。


もうほんと、何やってんの俺…。

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