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原稿用紙でラブレター

第1章 原稿用紙でラブレター






そこからは、怒涛の集中力でなんとか課題の作業を終えることができて。


窓の外は夕陽が沈みがかって、グラウンドに薄暗い影を落としていた。


「あ〜マジで助かったわ。
ありがとな、雅紀」

「マジ今度学食おごってよ?」


う〜んと伸びをしながら笑い合い、書き上げたレポート用紙をトントンと揃える。


「あ、俺トイレ。
わりぃ、先降りてていい?」

「うん。あと片付けとく」


ごめんと顔の前で謝る仕草を見せ、カバンを持って翔ちゃんは図書室を出て行った。


資料集を数冊抱えて書架へ向かいながら、ふとにのちゃんのことを思い出して。


そういえば、あれから一度も姿を見ていない。


集中していたせいもあって物音も聞こえなかったし。


先に帰ったにしても、俺たちの側を通らないといけないからさすがにそれには気付いたはず。


資料集をそれぞれ元へ戻すと、そのまま奥へと歩いていく。


なんとなく、足音を立てないようにして。


すると、書架がずらりと並ぶ列の一番奥。


その狭いスペースに、テーブルに顔を伏せた小さな背中が見えた。


…あれ、寝てる?


そろり近付くと、テーブルに突っ伏すように両腕を組み行儀良くまっすぐ顔を乗せて全く動かない。


側にはメガネと鉛筆が転がり、分厚い本が数冊積まれていて。


カーディガンを着た小さく丸まった背中が心なしか寒そうに見えた。


これって起こしたほうがいいのかな…


けどせっかく寝てるんだし…


心の中で自問自答しつつそこから動けないでいると、ふいにその小さな背中が身動いで。


ゆっくりと顔がこちらに向けられた。


…っ!


初めて見る、にのちゃんの寝顔。


無造作に跳ねたふわっとした髪。


くったりと下げられた不揃いな眉毛。


優しく閉じられたまぶたと、長い睫毛。


小さく開いた薄い唇。


そして、薄暗い部屋でも十分にわかるもっちりとしたほっぺた。


そのひとつひとつをジッと見つめて思わず息を飲んだ。


やっば…
かわいいっ…


俺も一端の健全な男子高校生だから。


好きな人のこんな可愛い無防備な姿に欲情しないわけがない。


ごくっと唾を飲み込んで、くぅくぅと小さな寝息を立てるにのちゃんのすぐ側にしゃがんでみた。

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