
原稿用紙でラブレター
第1章 原稿用紙でラブレター
「…翔ちゃん、定規貸して」
「はいよ」
カリカリとシャーペンの走る音と本を捲る音だけが響くこの部屋。
翔ちゃんの課題の再提出に駆り出された俺は、放課後の図書室に缶詰になっていて。
黙ってずっと作業を続けている俺たちは、終わりの見えない課題にうんざりしていた。
そんなしんと静まり返った空気を打ち破ったのは、痺れを切らした翔ちゃんの嘆きだった。
「…あーっ!もう無理だってー!
マジ鬼だよアイツ!信じらんねぇ!」
背もたれに仰け反りながら頭を両手でガシガシする翔ちゃん。
机に広がった資料集に目を遣り、俺も小さく溜め息を吐いた。
「これ今日終わんのかな…」
「無理っ!ぜってー無理!」
「うん…この量はヒドイよねぇ」
「マジふざけんなよ!ドSにも程があるっつーの!」
「こら、静かにしなさい」
頭を抱えて喚く翔ちゃんの真後ろの書架から、ふいに聞き覚えのある声が聞こえて。
えっ…?
現れたのは、ムスッとした顔で俺たちを見るにのちゃんだった。
「おわっ!二宮先生っ!?」
「ここは図書室ですよ。
騒ぐならグラウンドにでも行きなさい」
そう言いながら驚く翔ちゃんを冷ややかに見て、机に散らばる資料集に目線を落とし。
「日本史…」
「あっ、にのちゃんごめん!
静かにするから、ね?」
慌てて資料集を腕で隠し、にこっと笑みを張り付ける。
こんな騒いで課題やってんの松潤にバレたら…
じっと見つめてくる瞳にたじろぎながらも、翔ちゃんを肘で小突いてニコニコと見つめ返した。
「…次うるさくしたら松本先生呼びますから。
それに、私も奥で資料まとめてるので。
静かにするように」
「…はぁい」
棒読みでそう言い放つと、ふいっと背を向けて背の高い書架の間に消えていった。
「うわ、こえ〜…」
「も〜やろやろ。
はい、ほら早く」
にのちゃんの後ろ姿を見送る翔ちゃんの肩を叩き、資料集を手に取る。
もう…
翔ちゃんのせいでにのちゃんに怒られたじゃんか。
斜め向かいで眉間に皺を寄せて頬杖をつく翔ちゃんを少しだけ睨んでから、深呼吸して意を決すると再びシャーペンを走らせた。
