
原稿用紙でラブレター
第1章 原稿用紙でラブレター
俯いたまま何も言えないでいる俺に、ニヤニヤしていた大ちゃんの顔がスッと真顔になった気配がした。
「…どした?」
「大ちゃん俺…
どうしたらいいんだろ…」
紙袋をぎゅっと握るとクシャッと小さく音が鳴る。
初めて会った時から分かってたんだ。
あの日から、俺の学校生活は明らかに変わった。
にのちゃんに会える、それだけで学校に行くのが何倍も楽しみになって。
だからこの大事な時期になっても頭ん中はにのちゃんでいっぱいで。
にのちゃんのことをもっと知りたい、俺のことも知ってほしい、そんな気持ちだけでここまできた。
だけど、幼稚なコミュニケーションしか取れない俺は、やっぱり子どもなんだって思い知らされるだけ。
きっとにのちゃんにとっての俺は、手のかかる生徒の一人でしかないんだ。
でもこのままただひたすら想い続けるだけで、周りからも置いてかれて卒業するなんて絶対にイヤだから。
この気持ち…どう伝えればいいの?
「…HR終わったらいつもんとこ来い。
今日は職員会議ねぇから」
ふいの声に目を上げると"な?"と優しく笑う大ちゃんの顔があって。
ちょっと泣きそうになったのを堪えて小さく頷くと。
丁度のタイミングで予鈴が鳴り、慌てて教室を出て行く大ちゃんを吹き出しつつ見送った。
机に戻りながら受け取った紙袋を覗いてみる。
きれいに畳まれた俺の学ラン。
昨日これが、にのちゃんの小さな背中を一瞬でもあっためたんだと思うと。
まるで、俺がにのちゃんを抱き締めたみたいで。
我ながら都合の良い妄想だと思う。
だって…にのちゃんの髪やほっぺたに触れた時の感触がまだ鮮明に残ってるんだから、しょうがないよ。
…やっぱり俺は、にのちゃんが好きなんだ。
「あーーっ!やっべえ!」
突然の叫びに思わず肩を揺らして後ろを振り返る。
「昨日の課題持ってくんの忘れた…」
「えぇっ、ウソっ!?」
青ざめる翔ちゃんの目線が横に逸れ、更に見開かれ。
クラス中静かになったと思ったら、松潤がドアに寄りかかってこちらを見ていた。
「…さくらーい?」
腕を組んでニコニコしながらそう言う松潤。
「終わったわ、俺…」
また翔ちゃんの蚊の鳴くような声がした。
さよなら、翔ちゃん…
