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原稿用紙でラブレター

第5章 青いハートに御用心





あっけに取られたような加藤先生の顔。


と同時に予鈴が鳴り響いて。


「…あ、もしかして二宮先生もですかぁ?」

「…へっ?」

「えぇ~ライバルが二宮先生だなんてぇ!
でも恋する気持ちは誰にでもありますもんねっ…うん!
じゃあ僕は放課後アタックしま~す!」

「えっ!?ちょっ…」


ひらひらと手を振りながら駆けて行った背中を呆然と見つめつつ。


ガヤガヤと生徒たちが教室に入っていくのに気付き、それに押されるように漸く一歩を踏み出せた。



***



長いようで短かった相葉くんの教育実習も今日で終わり。


最後に受け持ちのクラスでHRをしたら、俺も知らなかった寄せ書きのサプライズがあって。


感激して泣き出した相葉くんを生徒たちが散々イジって最終日は幕を降ろした。


職員室では先生たちへ挨拶をする姿も見られて。



この実習で相葉くんは色んなものを吸収できたんだと思う。


それこそ知念くんじゃないけど、相葉くんも一皮剥けたような気がしてる。


それに、この実習中は俺にとっても凄く意味のあるものだったなって。


相葉くんのことになるとつい勝手に考え過ぎちゃうのが俺の悪い癖。


でももう大丈夫。
相葉くんが言ってくれたから。


…"俺だけ見てろ"って。


あの曖昧な記憶の中で唯一覚えていた言葉がそれだった。


…俺も言ったっていうのは覚えてないけど。



先生たちに挨拶を終えた相葉くんが最後に俺の机まで歩いてきて。


「二宮先生、今までお世話になりました!」


そう言ってニッコリと笑う顔が何だか大人びていて胸がきゅっと鳴る。


「いえ、こちらこそ。お疲れさまでした」


見上げた先の瞳はしっかりと俺を映し出して。


つられて微笑むと今度はゆるゆると口角が上がり。


「…今夜にのちゃんちで打ち上げ?」


周りに聞こえないようにそっと耳打ちしてきた声色に、一瞬で顔に熱が集まった。


その時、背後から一際高い声が聞こえて。


っ…!


咄嗟に相葉くんの腕を掴み、同時にバッグも引っ掴んで。


「帰りますよっ」

「えっ?」

「すみませんお先に失礼しますっ」


言いながら、職員室を出る時の相葉くんのぽかんとした顔に思うことは一つ。



…やっぱり俺、成長できてないや。




『青いハートに御用心』end

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