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原稿用紙でラブレター

第5章 青いハートに御用心






シトシトと降り続く雨の音が静かな教室に沁み入ってくる。


午後の授業ということもあってか、大半の生徒が教科書に顔がつきそうなほど項垂れていて。


こんなのはいつもの光景。
でも3年生なんだからそろそろ身入れないといけないんじゃない?


内心そう思いながら板書をしつつ、真面目に顔を上げている生徒に向けて授業を進めた。


その中で目に留まった一際真剣な眼差しを向けてくる瞳。


教科書と黒板を交互に見ながらシャーペンを動かしているのは知念くんで。


こんなに熱心に聞いてくれるとつい知念くんとばかり目を合わせてしまったりして。



大野先生に想いを告げてからというもの、知念くんはどことなく変わったような気がする。


廊下で会っても笑顔で挨拶をしてくるし、今までのような物静かな感じとはどこか違っていて。


一皮剥けたというか、強くなったというか。


やっぱり、元々芯の強い子だっていうのは間違いではなかったんだ。


今はこうして、次の目標に向かって歩き出しているし。


知念くんの進学先は、相葉くんの通う教育大学。


…そう、大野先生と同じ道に進むと決めたんだ。


尚も真剣な眼差しを向けてくる瞳を見て浮かんでくるのは相葉くんの顔。


…こんなところまで似てるなんて。



腕時計に目を遣れば間もなく授業終了の時刻。


見渡せば顔を上げているのは数えるほどで。


そんなに俺の授業面白くないかなぁ…


ふいに知念くんとバッチリ合ってしまった瞳。


顔に出ていたのか心情を読み取られたらしく、ふふっと小さく笑われてしまった。


そして軽くこだまするチャイムの音で一斉に空気が動き出す教室。


号令の後いつものように出て行こうとすると、ふいに呼び止められて振り返れば。


そこに居たのは知念くんで。


「あの…今日で相葉先生って実習終わりですよね?
最後に相談があるんですけど…」


少し遠慮がちにそう発した言葉に疑問符が浮かぶ。


「…ぇ、あの、なんで私に…」

「いや、二宮先生には言っておいた方がいいかなって」

「え?」

「だって…先生ヤキモチ妬くから」

「っ…!」


ふふっといたずらに笑う幼い顔に、みるみる赤面していくのを自覚して。

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