テキストサイズ

原稿用紙でラブレター

第5章 青いハートに御用心






その日の夜。


相葉くんを家に呼んで、大野先生のことを話した。


最後まで真剣に聞いてくれたのはいいんだけど、話し終えると瞳には溢れそうに涙を浮かべていて。


「もぅ泣き虫…」

「いやだってさぁ!」


ティッシュボックスから二、三枚抜き取って渡すと、ズビズビと鼻を鳴らしながら拭く相葉くん。


その様子に苦笑しつつ、でもそれも無理もないかって思ったりして。



大野先生が話してくれたこと。


それは、過去の自分の恋愛の話だった。


大野先生も過去に…高校生の頃に、知念くんと同じように先生に想いを抱いていて。


卒業する前に勇気を出して気持ちを打ち明けたら、その先生は受け入れてくれたんだそう。


それから卒業して付き合うようになったけれど、ある時そのことが学校の中で噂になってしまった。


その先生は当時在職していたから周囲の偏見の目に耐えられなくなって。


それと同時に大野先生との関係も一方的に断ち切られてしまったんだ。


大野先生は言っていた。



『でも結局それだけじゃなかったんだよきっと。最初から俺のことなんか好きじゃなかったんだなって』

『そんな…』

『ただの"優しさ"だったんだよな…憧れの延長だと思われてたんじゃねぇかな。そこに恋愛感情なんてなかったんだよ、きっとな』



大野先生は本気でその先生のことが好きだった。


だから…知念くんの気持ちは大野先生が一番良く分かってる。


だからこそ。


優しさだけで中途半端なことは出来ないって。


過去の自分のようにはなってほしくない、そうさせちゃいけないと心に決めていたんだ。


でもそのことが結果的に知念くんを追い込む形になってしまって。


あんなひどい事をされていたなんて大野先生は全く知らなかったから。


守ってやれなかった、と苦しそうに顔を歪めて悔やんでいた。


それと…



『その先生は…今どうしてるんですか?』

『さぁな…それ以来連絡も取ってねぇし。何してんのかな』

『あの、もしかして…机の写真の…』

『んぁ?あぁ…見た?ふふっ、そうそうあれな』



今朝見たデスクマットの下の褪せた写真には、高校生の頃の大野先生と想いを寄せていた先生らしき人が写っていた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ