
原稿用紙でラブレター
第5章 青いハートに御用心
迷いなくその場所へ向かうと、ドアの小窓から丸まった背中を見つけて。
控え目にノックをしてカラカラとドアを開ければ、振り返ったその瞳はいつもと変わらない色で迎えてくれた。
「…どした?なんか呼び出し?」
「いえ…ちょっとお話したくて。今いいですか…?」
実験用の器具が並ぶこの物理準備室も、職員室の机と同じようにそれらが整然と位置している。
「あ、ちょっと待ってな。これ片付けっから」
黒い実験台の傍の丸椅子に腰掛け、棚にカチャカチャと器具を収納する背中を見つめて。
タン、と戸を閉めた音と共に振り返った大野先生に再び視線を合わせた。
「あの…この間の知念くんのことを聞いてもいいですか…?」
静かにそう問い掛けると、少しの間のあと何も言わずに斜め向かいの丸椅子に腰掛けた大野先生。
実験台をジッと見つめたまま考えるように腕を組んで。
何か言葉を探しているようにも見えた。
…きっと大野先生もショックだったんだろう。
教え子があんな目に遭っていたのを知らなかったんだ。
でも知念くんには…大野先生にだけは言えない事情があったから。
続く沈黙の中、それを破ったのは大野先生の一言で。
「…全部俺のせいなんだよ」
ぽつり届いた言葉に顔を上げれば、小さく息を吐いて組んでいた腕を力無く解き。
「……ぇ」
「俺のせいなんだよな…」
手元に目を伏せたままぽつぽつと話し始めたその言葉に耳を傾けた。
「知ってたんだよ、俺。
アイツの気持ち…」
「……え?」
予想だにしなかったその言葉に思わず聞き返してしまって。
知っ…てた…?
「…聞いたろ?知念から。保健室で話したろ」
「っ…」
「でもな…気付かないフリしてたんだよ俺」
「……」
「そりゃあ…あんなひでぇ事されてんのなんか俺には言える訳ねぇよな…」
言い終えて口を結んだ翳った表情。
今の大野先生の話から、あの体育祭の日に知念くんは想いを伝えたんだって分かった。
でも…
先生はそれを知ってて、敢えて気付かないフリをしてたって…
どうして…?
