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原稿用紙でラブレター

第5章 青いハートに御用心





すうっと息を吸えば香ってくるにのちゃんの甘い匂い。


腕の中の温もりに胸が詰まって言葉にならない。


何も言わずただぎゅっと抱き締めていると、そんな俺に戸惑ってか小さく身動ぐにのちゃん。


もぞもぞする様子が何だか可笑しくて愛おしくて。


「相葉くんっ…」


痺れを切らしたのかぺちっと背中を叩いて制され、思わず鼻から笑みが零れた。


「…にのちゃん?」

「……ぅん?」


ぎゅっと抱き締めたまま少しだけ緩めた腕。


耳に唇を寄せて囁けばぴくっと揺れて返ってきた返事。


「俺はね…ずーっとにのちゃんしか見てないよ。
ただの一度も他のヤツのことなんか考えたことない」

「……」

「俺だってにのちゃんのこと誰にもあげない。
誰がくれてやるかっつーの」


耳元でぼそぼそと話し続ける間、その表情は見えていないけれど。


熱くなった耳たぶと合わさった胸から伝わる心音が、俺の想いもちゃんと届いてるんだって知らしめてくれて。


がばっと起き上がってみれば、現れたにのちゃんの顔はアルコールじゃない火照りを纏い潤んだ瞳で見上げられ。


「だから…にのちゃんも他のヤツらなんかに愛想振り撒いてちゃダメだって」



ふいにさっきの居酒屋で先生たちに囲まれていたのを思い出した。


あんな姿もう二度と見せらんない。


あんな可愛い顔見せたら勘違いされるじゃん。


俺のにのちゃんなのに…



「だから…
俺だけ見てろよ…いい?」

「っ…、ぅん…」


にのちゃんの言葉を借りて真っ直ぐ見下ろしながらそう投げ掛けると。


ぽっと音がしたんじゃないかってくらい一瞬で染まった目元。


"俺だけ見てろ"なんて初めて言ったけど。


…ちょっとカッコつけ過ぎたかな。


あ、そうだ。


さっきにのちゃんに投げ掛けたこと、俺の意図した答えはまだ返ってきてないから。


「ねぇ、今日はどうしてほしいの…?」


未だ恥ずかしそうに伏せたままの瞳にそっと問い掛けた。


すると少しの間の後、むにむにと動かした唇が小さく呟いて。


「相葉くん…
相葉くんの、好きなようにして…」

「っ…」


消え入りそうな声と上目遣いの潤んだ瞳に居ても立っても居られずに。


顔横にだらけた手の平をシーツに縫い付け、一気に着火した昂りを押し付けるように再び覆い被さった。

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