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原稿用紙でラブレター

第5章 青いハートに御用心






本部前のテントに戻った俺たちを見つけて真っ先に声を掛けてきたのは。


「おい大丈夫か?」


心配そうに隣の知念くんを覗き込む大野先生だった。


「相葉から聞いた。なぁ…何で俺に言わなかった?」

「すみません…」


肩に置かれた手にきゅっと縮こまって俯いてしまった知念くん。


大野先生は知念くんの部活の顧問。
だから人一倍心配なのはもちろんのこと。


でも…


「今までもあったんだろ?何で言ってくんなかったんだよ…言ってくれたらこんなこと、」

「先生…今は責めないであげてください」


顔を覗き込もうとする大野先生を遮る。


一番言いたくないよね、こんなこと…


「…今は、責めるのは違います。後でちゃんと話すと思いますから…ね?」


さっき晴れやかに見えた知念くんの顔は、大野先生を前にしてまた緊張したように固まっていて。


問い掛ければこくんと頷いた横顔。


その様子に、寄せていた大野先生の眉は次第に切なそうに下がった。


「…分かった。後で話聞くから…いいか?知念」

「…はい」


小さく返した声。
そっと背中を摩れば、上げられた瞳はさっきのように澄んで俺を見つめて。


その瞳が"ありがとう"と言ったような気がした。



「あれ?二宮先生もういいんですか?」


ふいに背後から掛けられた声に振り返ると。


腕を組んでこちらに歩いてくる松本先生の姿。


「あ、さっきは保健室まですみませんでした。もうだいぶいいので…」

「それなら良かった。いや相葉先生がさ、俺の話聞かずに探しに行っちゃったもんだから」

「…え?」

「"にのちゃんが居なくなっちゃった!"って青い顔して走ってったんで。保健室だぞーって言ったけど、背中に」


"全然聞いてなかったみたい"と言いながらイヒヒと笑う松本先生。


そうだったんだ…


え、じゃあ相葉くんが俺を探してなかったらもしかして知念くんはあのまま…


クラスの応援席に歩いて行く知念くんの小さな背中を見つめて。


全身がぞくりと粟立った。


こんなことがあった後で言っていい言葉か分かんないけど。


…過保護な相葉くんで良かった。

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