
原稿用紙でラブレター
第5章 青いハートに御用心
そんな知念くんに、俺は何も言ってやれないまま。
いや…俺なんかには知念くんの辛さを推し量れる言葉は到底持ち合わせていないから。
ただただ背中を摩り続けることしか出来なくて。
…ごめんね。
もう何も言わなくていいよ。
…辛かったね。
俯く知念くんの横顔を見ていると心底居た堪れなくなって。
勝手に込み上げそうになるのをぐっと堪える。
なんで俺が泣きそうなの…
「でも…」
ふいに微かに聞こえた声に耳を傾けると。
「やっぱり僕…変わりたいんです…」
「…え?」
「強くなりたい…自分に…自信が持てるように…なりたい…」
途切れ途切れだけどしっかりと届いたその言葉。
そしてゆっくりと上げた顔は、さっきの憂いの代わりに直向きな想いの宿った瞳を従えていて。
「二宮先生は…」
「……?」
「どのくらい…相葉先生が好きですか…?」
「えっ!?」
急に向けられたその問いに思わず声が出てしまった。
どっ…どのくらい…?
「えっ?と…あの…」
「相葉先生は…」
突然の展開に分かりやすく慌てる俺に知念くんが被せた言葉は。
「世界で一番…誰よりも好きだ、って…言ってました」
「っ…」
真っ直ぐに見つめながらそう告げられ、顔中に熱が集まるのを自覚する。
相葉くんそんなこと…
綺麗な黒目がちの瞳は一点の曇りもなく澄んでいて。
「そんな風に胸を張って想える人がいて羨ましいなって…だから僕も…」
続けようとした唇は確かめるようにきゅっと一度結ばれ。
「僕も勇気を持って…大好きな人に…想いを伝えようって決めたんです。相葉先生みたいに…」
言い終えた知念くんの顔はどこか清々しささえ感じるほど晴れやかだった。
知念くんの心を動かしたのは…救ったのは、間違いなく相葉くんの存在。
それなのに俺は…
いつまでも子どもみたいにやきもちばっかり妬いて…
「先生、もう行きましょう」
「…え?でも…」
「僕は大丈夫です。強くなんなきゃ…
それに…最後の体育祭はちゃんと出たいから」
そう言って微笑む幼い笑顔。
「先生達のリレーも始まりますよ、ほらっ」
「えっ、ちょ…」
ふいに右手を取られ、知念くんが立ち上がった勢いそのままに手を引かれて保健室を出た。
