
原稿用紙でラブレター
第5章 青いハートに御用心
「じゃあ知念くんのことお願いします」
「…はい」
合流した校舎下のトイレ。
未だ蹲る知念くんの横にしゃがむと、うんと頷いて相葉くんは駆けて行った。
さっき感じた只ならぬ雰囲気は間違いじゃなくて。
全てを聞いた訳ではないけれど、そうしなくても分かる砂で汚れた体操服とジャージが痛々しい。
「…立てますか?」
そっと肩を抱くと小刻みに震える体に胸がぎゅっと押し潰されそう。
「保健室、行きましょう…?」
"ね?"と問い掛ければ鼻を啜りながらこくんと頷いて。
一緒にゆっくりと立ち上がり、砂利を踏み締めながら一歩ずつ足を進めた。
***
再び入室した俺に保健室の先生は目を丸くしていたけれど。
知念くんを見て察したのか、すぐにベッドへ促してくれて。
そして"二宮先生がついてあげたほうがいいでしょうね"と気遣ってくれた先生は、そのまま静かに退室してくれた。
ベッド脇の丸椅子にちょこんと腰掛けている俯いた姿。
横になりなさいと促しても"砂で汚れるので"と遠慮する姿勢に居た堪れなさが募る。
同じように隣に腰掛けてそっと横顔を覗き込んだ。
幼さの残るその顔は長い睫毛を伏せて憂いを帯び。
固く結んだ口元からはまるで何も言いたくないという意志が見てとれる。
「ぁ、あの…相葉先生が、その…生徒を探しに行ってますから…」
「……」
「…大丈夫、ですから…」
ぽつり問い掛けても一点を見つめたまま翳った表情は変わらず。
…こういう時、なんて声を掛けたらいいんだろう。
相葉くんの短い説明からでも十分に察しのつく内容。
教師として、男として。
今、この子に言ってあげられることって何…?
「……僕、」
微かに聞きとれるくらいの小さな声。
視線を遣ればきゅっと唇を噛み締めた横顔。
「…嫌いなんです、自分が…」
「……え」
膝に握った拳にもぎゅっと力が入り。
「小さい頃から…女みたいとか…弱虫とか言われて…」
「……」
「そんな自分を変えたくて…変わりたくて、ここを選んだけど…」
段々と上擦る声。
「…どこに行っても…僕はっ…」
そこまで言うと詰まってしまった小さな背中。
そっと撫でれば、きゅうっと肩を縮こまらせて俯いてしまった。
